WHOのIHR国際保健規則(2005年版)の改訂案とパンデミック条約【1】

7月13日当会発行のニュースレターVol.31に注視すべき問題として掲載した上條泉氏の寄稿文です。

筆者紹介

上條 泉
20代後半から30年以上欧州と米国で仕事に従事。ドイツ・フライブルグ大学のスピンオフでガン治療開発の仕事に従事した後、2021年に日本に帰国。現在、ドイツのクリニック等に開発したガン治療のノウハウを提供。World Council for Health日本支部の理事・事務局長。

要約

国際保健機関(WHO)とその成り立ち

1948年に設立された「国連ファミリー」の「専門機関」 だが、法的には政府間の協定で作られた、国連とは独立した機関であり、そのWHO憲章である世界保健機関憲章第1条には、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的とするものとある。

国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(public health emergency of international concern, PHEIC)」 

「Covid-19パンデミック」の発現により、現在WHOとその事務局長の権限の異常拡大と、助言としてのWHOの勧告が法的強制力を持つように急ピッチで計画されている。
「2002-2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓などに基づいて大幅な改正が行われ、2007年に国際保健規則が発効された。
それには「各国は自国領域内で発生した国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成するおそれのあるすべての事象及びそれら事象に対して実施される一切の保健上の措置WHOに通報しなければならない」と規定。
PHEICが実際に発動した例:国際保健規則が2007年に発効した後にちょうど起きた新型インフルエンザ事件

「これは条約ではないが、国を法的に拘束するものである」

IHR国際保健規則(International Health Regulations)の改訂とパンデミック条約へのロードマップ

2021年末、米国バイデン政権とEU委員会からそれぞれ、IHR国際保健規則の改訂と新たなパンデミック条約の提案が行われた。
その「改訂」は、300以上の変更箇所と大量な書き足し及び6つの新規条項と新規付属書1つを含むもので、すべては2024年5月の第77回世界保健総会(WHA)で決まるように設定されている(内容は下記の原文を参照)。

一番重要なことは「PHEIC宣言とともに、各国の憲法が覆えされてしまう」ということ。

規約が実効されると、日本でかろうじて維持されてきたワクチン接種の選択の自由などは簡単に吹き飛ばされてしまい、WHOの一存で全世界(加盟国)に保健の名の下で戒厳令がしかれるということを意味する。

<以下本文>

WHOのIHR国際保健規則(2005年版)の改訂案とパンデミック条約【1】

◆はじめに〜WHOの成り立ち


国際保健機関(WHO)は、「国連ファミリー」の「専門機関」 ですが、法的には政府間の協定で作られた、国連とは独立した機関です。
www.un.org/en/about-us/un-system

また、国連(United Nations国際連合)自体は、第二次世界大戦後に戦勝国(米、英、ソビエト連邦、中華人民共和国=安全保障常任理事国)によって作られた機構で、1919年から1946年まで存在していた国際連盟(League of Nations、第一次世界大戦の戦勝国フランス、イギリス、イタリア、日本が常任理事国)とは別のものです。

WHOも同様に、以前から存在していた国際連盟保健機関が解散した後、1948年に新たに設立されました。
当時作成されたWHO憲章(240ページ以上)の世界保健機関憲章第1条には、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的とするとあり、第2条でその機能を以下のように説明しています。 

(a)「国際保健活動の指揮・調整機関」として活動すること。
(b)国際連合、専門機関、政府の保健行政機関、専門家グループ、その他適切と思われる機関との「効果的な協力関係」を確立し、維持すること。
(c)『要請に応じて』、保健サービスの強化において『各国政府を支援する』こと。
(d) 『各国政府の要請又は承認に応じて』、適切な技術支援及び緊急時に必要な援助を行うこと。
(e) 『国際連合の要請に応じて』、信託統治領の人民など特別な集団に対する保健サービスおよび施設を提供または援助すること。
(f) 疫学及び統計業務を含む、「必要とされる管理上の及び技術的な業務を行ない」、維持すること。
(g) 伝染病、風土病その他の疾病を根絶するための活動を奨励し、促進すること。
(h) 必要な場合には他の専門機関と協力して,事故による傷害の予防を推進すること。
(i) 必要な場合には、他の専門機関と協力して、「栄養、住居、衛生、レクリエーション、労働条件その他の環境衛生面の改善を促進」すること。
(k) 「国際保健問題に関する条約、協定、規則を提案」し、勧告すること。
(l) 母子の健康と福祉を促進し、変化する環境の中で調和して生きる能力を育成する。
(m) 精神保健の分野における活動、特に人間関係の調和に影響を与える活動を促進すること。
(n) 保健分野における研究を促進し、実施すること。
(o)保健、医療および関連専門職の教育および研修の水準の向上を推進すること。
(p) 必要な場合には、他の専門機関と協力して、「保健衛生に影響を及ぼす行政上および社会上の技術について研究」し、報告すること。
(q) 『保健分野における情報、助言、援助』を提供すること;
(r) 保健に関する事項について、すべての国民が「十分な情報に基づいた世論を形成する」のを支援すること。
(s) 疾病、死因および公衆衛生慣行の国際的命名法を確立し、必要に応じて改訂すること。
(t) 必要に応じ、「診断手順を標準化」すること。
(u) 「食品、生物学的製品、医薬品及び類似の製品に関する国際基準を確立し、推進」すること。
(v) 一般的に、「WHOの目的を達成するために必要なすべての行動をとる」こと。
(「」と『』は筆者による)

上記のような意図でスタートしたWHOですが、既に”ワンヘルス”と全体的な管理へ向けての指向性が混在しているように見えます。
https://my159p.com/l/m/NAfreXcHheY2Kp

当時は、あくまでも国家からの要請があった場合に助言として勧告する、というスタンスが前面に置かれていました(『』内部)。

そして約75年後の今、WHOとその事務局長の権限の異常な拡大と、助言としてのWHOの勧告が法的強制力を持つように急ピッチで計画されています。歴史上全く新しい局面が、「Covid-19パンデミック」と共に現れた、と言っても過言ではないでしょう。

◆WHO事務局長の権限と「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(public health emergency of international concern, PHEIC)」 


国際法学会のエキスパート・コメントNo.2021-4「Covid-19と国際機構」で岡田陽平氏(神戸大学大学院国際協力研究科准教授)は、1948年のWHO憲章発効以来、 「今日の国際防疫に係る法的枠組みの要は、保健総会がこの権限を行使して採択した2005年の国際保健規則であるといって差し支えないでしょう」、と位置づけています。
https://my159p.com/l/m/rM8CH3G8EHOmlq

2007年に発効した国際保健規則は、「2002-2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓などに基づいて、2005年に大幅な改正が行われ、”国際交通及び取引に対する不要な阻害を回避し、公衆衛生リスクに応じて、それに限定した方法で、疾病の国際的拡大を防止し、防護し、管理し、及びそのための公衆衛生対策を提供すること”をその目的として」おり(2条)、「それ自体は条約ではありませんが、国を法的に拘束するもの」です。
www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/kokusaihoken_j.html

その6条では、各国は「自国領域内で発生した国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成するおそれのあるすべての事象及びそれら事象に対して実施される一切の保健上の措置を[…]WHOに通報しなければならない」と規定されている、と岡田准教授は説明しています。

この、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」が、誰が、どのような条件下で、どのような法的権限の下に宣言することができるのかが、最も重要な点です。岡田准教授によると、現時点においてこのPHEIC 認定は、「事務局長は、48条に基づいて設置される緊急委員会の助言を考慮しなければ」ならないということです(12条4項(c)号)。

しかしこの PHEICが実際に発動した例として、国際保健規則が2007年に発効した後に起きた、新型インフルエンザ事件がその特性を示しています。以下はWikipediaからの引用です:”2009年から10年にかけての新型インフルエンザの世界的流行に際し、WHOのマーガレット・チャン事務局長は「今、すべての人類が脅威にさらされている」として、新型インフルエンザをすべての人類の脅威とする広報を行った。その後、新型インフルエンザが弱毒性である事が発覚するも、顕著な感染や死亡の被害が著しい事態を想定した警告であるフェーズレベル6/6と警告し、パンデミックを宣言した。 

しかし初の「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)の対象にまでになった新型インフルエンザは前例のない保健当局と科学者と製薬会社が強力に連携する体制をもたらしたが、実際は他の季節性インフルエンザと大差ないレベルのインフルエンザで被害も小さなものであった。 

一連のWHOの誤報への批判が高まり、これを重く見た欧州議会は、パンデミック宣言に至った経緯の調査に踏み出す事態となった。欧州議会のボーダルク(W. Wordarg)前保健衛生委員長は、WHOの宣言は偽のパンデミックであったとして問題提起をし、WHOの意思決定には製薬会社の意向が大きく影響した可能が高いとしている。

製薬会社は研究所などで働く科学者へ大きな影響力を持っており、この事と今回WHOが広く科学者の意見を求めた事がその影響力を強める原因になったと語っている。
https://my159p.com/l/m/JCD8lC4AAo8vnD

以上のような事態の発生は、事実上、WHOが大きく判断を間違ったことを示しています。また、はるかに大きなスケールで、今回のCovid-19においても類似したことが起きたことが超過死亡率などの統計を見ると明らかになります。
https://my159p.com/l/m/woOTxlsYQ77JyA

「コロナ元年」の2020年にはドイツと日本では通常のばらつきを超えた超過死亡率が無く、むしろ日本では例年よりも死亡率が下がったくらいでした。ところが2021年にワクチン接種が始まって以来、ウイルスの弱毒化と反比例して、はっきりとした超過死亡の傾向がどちらも見られます。

◆IHR(International Health Regulations)国際保健規則の改訂とパンデミック条約へのロードマップ


2021年も終わろうとする頃、米国バイデン政権とEU委員会からそれぞれ、WHOの役割を再定義し、その権限を抜本的に拡大する提案として、IHR国際保健規則の改訂と新たなパンデミック条約の提案が行われました。どれも、次のパンデミック時に「効果的な協力関係」を実現するため、という名目の下に提案されたものです。

この二つの提案は別々に提案されたものですが、お互いに補完し合うような構造になっています。
https://my159p.com/l/m/S3OFHvOK4jpby4

また、IHR国際保健規則の「改訂」は、300以上の変更箇所と大量な書き足し、および6つの新規条項と新規付属書1つを含むもので、むしろ「書き換え」と呼んだ方がより正確な表現になります。※下記原文参照
https://my159p.com/l/m/Rxqr9DdfyR6iQO

そして、その可決に向けて次のようなロードマップが取り決められました:
第77回国世界保健総会、2024年5月
                                                                                    
1)対象:国際保健規則改訂WHO憲章第22条→草案+交渉中→単純多数で可決→12ヶ月後に発効(2025年6月)あるいは10か月以内に拒否(脱退)                                                                                                     
2)対象:パンデミック条約(CA+)WHO憲章第19/22条→草案+交渉中→2/3多数で可決→18ヶ月以内に各国で批准 すなわち2025年11月まで
                                                                                                  
このように、全ては2024年5月の第77回世界保健総会(WHA)で決まるように設定されています。特に、 国際保健規則の改訂は、単純な多数決で1票でも多ければ可決され、反対したり棄権した国は、そのまま新たな状況に甘んじるか、10ヵ月以内にWHOを脱退するかの選択を余儀なくされます。

◆国際保健規則の改訂案


その内容は、要約すると下記のようになります:

1)『勧告から義務への変更』: WHOの全体的な性格を、単に勧告を行うだけの諮問機関から、法的拘束力を持つ統治機関に変更する。(第1条および第42条)
2)『実際の緊急事態(PHEIC)ではなく、潜在的な緊急事態を対象とする』: 国際保健規則の適用範囲を大幅に拡大し、単に公衆衛生に影響を及ぼす可能性のある場合のシナリオを含む。(第2条)
3) 条文中の「人々の尊厳、人権、基本的自由の尊重」を削除。(第3条)
4)『保健製品の割当を行なう』: WHO事務局長に「保健製品の割当計画」を通じて生産手段を管理させ、先進締約国にパンデミック対応製品を指示通りに供給するよう求める。(第13条A)
5) WHOに、健康診断、予防薬の証明、ワクチンの証明、接触者追跡、検疫、治療を義務づける権限を与える。(第18条)
6)『グローバルヘルス証明書』: 検査証明書、ワクチン証明書、予防接種証明書、回復証明書、旅客所在確認書、旅行者の健康宣言書を含む、デジタル形式または紙形式のグローバル健康証明書システムを導入する。(第18条、第23条、第24条、第27条、第28条、第31条、第35条、第36条、第44条、付属書第6条、第8条)。
7)健康対策に関して主権国家が下した決定を覆す権限を緊急委員会に与え、緊急委員会の決定を最終決定とする。(第43条)
8)『不特定の、潜在的に莫大な財政的コスト』: 何十億ドルという指定のないお金を、説明責任のない製薬・大病院・緊急事態産業の複合体に割り当てる。(第44条A)
9)『検閲』:世界保健機関が誤報や偽情報とみなすものを検閲する能力を大幅に拡大する。(附属書1、36ページ)
10)『協力義務』: 改訂IHRの発効時点で、PHEICを執行するためのインフラの構築、提供、維持の義務を設ける。(附属書10)
※『』は筆者による・要約は#ExitTheWHO をやめるべき 10 の理由、James Roguski氏の要約を参考。
https://my159p.com/l/m/cO3IZpyTmbuKoq

更に重要なことは、 PHEIC宣言とともに、各国の憲法が覆えされてしまうという事です。
WHO緊急委員会の決定が最も権威のある最終決定になり、事実上主権国家が主権をWHOに預けることになります。この決定には、いわゆるチェック・アンド・バランス(不均衡を牽制する機能)が一切無いことが特徴です。

上記の項目が実効されると、日本でかろうじて維持されてきたワクチン接種の選択の自由などは簡単に吹き飛ばされてしまいます。例えば、”ワンヘルス”の下では、鶏の間で流行っている鳥インフルエンザをWHOが潜在的に危機をはらんでいると決める可能性があり、PHEICが発動されると行動の自由やその他の人権が封じ込まれ、そのために準備された、ヒト用のワクチンが強制的に打たれる、ということが起こりかねないのです。

つまり、WHOの一存で全世界(加盟国)に保健の名の下で戒厳令がしかれるということを意味しています。

このような決定的な取り決めが、一部の国(米国など)をのぞいて議会で一切議論されず、国民に知らされることなく採決されようとしています。そして、機を一にして、日本の改憲の関連での緊急事態条項の追加に向けての動向も、このような流れと同調しているように見えます。

このWHOの目論みが実現されると、日本国内の改憲による政府の膨大な権限拡大に留まらず、国家そのものの主権がWHOに自動的に移行するシステムが築かれようとしていることに留意する必要があります。


※後編【2】(8月9日配信予定メルマガに寄稿)では、パンデミック条約と、WHOが保健産業との複合体であるということ(利益相反の問題)、そして、このようなWHOの独占的権力奪取に対する世界各国での反応と取り組みについてご報告したいと思います。なお、IHR原文の変更箇所(案)に関する日本語注釈付き対比表は現在作成中です。