ワクチン後遺症におけるセルフケア『各論2』

吉野 真人先生 

医師

蒲田よしのクリニック院長
ワクチン後遺症研究会 代表

ワクチン後遺症の多彩な症状のうち、とりわけ目立つのが「神経系統の症状」です。およそ半分くらいは神経系統の症状となっています。頻度の多い症状として、めまい、シビレ、集中力および記憶力の低下、ブレインフォグ、不安感、憂うつ感、不眠、などと続きます。

実際に外来でワクチン後遺症の診療をしていると、このような神経系統の症状が多い事には驚かされます。例えばある女性は「頭がボーっとして集中力が落ち、毎日が不安で、クラクラとめまいがして、夜も眠れず、両足がシビレて・・」などと「神経の不調」を訴えます。そのような神経系統の症状に対しどのような栄養素が必要かを考える前に、ワクチン後遺症で神経系統の異常が現れるメカニズムを少し考えてみます。その病態を考えるための一つのモデルとなるのが、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CSF)です。

このME/CSFはウイルス感染症などを引き金として発症し、高度の倦怠感や思考力低下、不安障害、自律神経失調、全身の筋肉痛など多彩な症状が長く続き、仕事や社会生活に重大な支障を来たすほど深刻な体調不良に悩まされる方が少なくありません。ME/CSFは長らく原因不明とされてきましたが、約20年前のSARS流行の際にも症例が続出して世界的な問題となり、それを一つの契機として世界中で研究が進みました。日本でも国立精神・神経医療研究センターなどが中心となり研究が行なわれました。

その研究結果の一つを紹介すると、ME/CSF患者の自己抗体検査および脳の特殊なMRI画像解析を施行したところ、神経受容体に対する各種の自己抗体が検出され、症状に対応する脳内の「炎症を伴う機能低下」を示す画像所見が得られました。

この研究結果からは、自律神経や感覚神経など各種神経の接合部に於いて、神経伝達物質の受容体に炎症が生じ、神経伝達が障害される事によって、各種の自律神経失調、不安障害、全身倦怠感、各所の疼痛などの諸症状が引き起こされると考えられています。

さて今回のワクチン後遺症の病態に関しては世界中で研究が進められており、神経系統の諸症状とME/CSFとの強い関連性が多くの専門家から報告されています。確かにSARSの際にも多発した神経症状と、今回のワクチン後遺症とは類似点が多々あります。

それでは何故SARSやワクチン後遺症では、神経系統に「炎症」が発生しやすいのでしょうか。これは前回コラムで説明した「免疫異常」と「酸化ストレス」などが関与していますが、この両者はいずれも神経組織にとりわけ重大な影響を及ぼす事が知られています。

そうだとすると、神経系統の炎症に伴う諸症状を緩和するためには、その背景となっている免疫異常と酸化ストレスを制御する必要があります。そのためには前回コラムで説明したようなEPA(エイコサペンタエン酸)やビタミンCなどの栄養素の補給が大切です。

それに加え、炎症により障害された神経の修復が重要なプロセスとなります。神経接合部に於ける神経伝達物質受容体の障害に関しては、うつ状態や不安障害、不眠症などの精神疾患に於いて、セロトニンを始めとする神経伝達物質の機能不全が証明されています。実際に、うつ状態ではセロトニンの神経接合部に於ける活性を増強するような治療が臨床現場で行なわれています。それがいわゆる「抗うつ薬」としてのSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。この薬の作用によりセロトニンの働きが一時的に活性化します。

ところがSSRIなどの抗うつ薬の効果は減衰しやすいという宿命にあります。最初は効果があっても次第に効きにくくなるのです。また幻覚などの副作用がたいへん強いため、世界的にはセロトニンの生合成を活発にするような治療法に移行しつつあります。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸を原料とし、鉄やビタミンB群などを補酵素として生合成されるので、これらの栄養素を積極的に補給する事が推奨されています。単純化して言うと、タンパク質とビタミン、ミネラルをしっかり補給する事に尽きます。

他の神経伝達物質も基本的に同様で、例えば思考力低下ではドーパミン、不眠ではメラトニン、不安障害ではGABA(ガンマアミノ酪酸)の生合成を活発にする必要があり、やはりタンパク質やビタミン、ミネラル各種の補給がたいへん重要となります。このような鉄やビタミンB群が足りているかどうか、そしてタンパク質がうまく活用されているかどうかは、実は血液検査でかなりの程度、評価が可能です。例えばうつ状態などでは、8~9割程度の方が血液検査によって、これらの異常が検出されています。

神経組織の修復には、コレステロールなど脂質も重要な役割を果たします。神経細胞はタンパク質と並んで豊富なコレステロールから構成されているため、その補給は大切です。また神経細胞を安定させる上では、とりわけDHA(ドコサヘキサエン酸)が重要です。

神経機能および栄養バランスの回復のためには、腸内環境の改善が重要なポイントの一つとなります。腸内環境が悪いと栄養素の吸収が悪くなり、食物アレルギーが発生しやすくなるためです。乳酸菌の補給や発酵食品の摂取、良質なアミノ酸の補給などが重要です。

次回は以上を踏まえ、具体的な食生活上の工夫などについて説明します。(ニュースレターVol.23より)

ワクチン後遺症研究会
代表 吉野 真人


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